2012年3月15日木曜日

魔女達の宴−第一幕−「始まり」


 それは三日前。

 浩之達二年生が、修学旅行から帰ってきて、初めての火曜日。

 浩之は久しぶりの部活−オカルト研究会に顔を出すため、琴音と共に部室へと向かっていた。

「そう言えば藤田さん」

「なんだい?」

「部室の模様替えしたんですよ。来須川先輩と二人で」

「へえー、どこが変わったんだい?」

「それは見てのお楽しみです。結構大変だったんですよ」

「そう言われてもなぁ・・・俺が帰って来るまで待ってりゃ、手伝えたのに」

「驚かそうと思って・・・」

「そう言うことなら部室に入るまで黙ってなきゃ」

 琴音は小さく「あ」とつぶやき足を止めてしまう。

 どうやらそこまでは気がつかなかったらしい。

「ま、とりあえず部室に行こう。先輩も待っ� ��るだろうし」

「そうですね」

 再び歩き出す二人。

 文化系の部室が並ぶ廊下の突き当たりに『オカルト研究会』の部室はある。

 一応浩之はノックをするが、例え中に芹香がいたとして、どうぞと言ってもさすがに扉越しでは聞こえない。

 適当に間を置いて扉を開け、琴音も「お邪魔します」と後に続く。

 部室に入ってまず目に付いたのは、既に魔女ルックに身を固めた芹香と・・・

「・・・模様替えって、このソファーのこと?」

 それは部屋の中央に置かれたフロアーソファーであった。

 L字型に置かれたそれの手前には、実に柔らかそうなシャギーラグが置かれており、およそこの部屋の雰囲気とはかけ離れた空間を作りだしていた。

 何ともそこだけ妙に居心地が良さ� ��うで、浩之はすぐさま横になって一眠りしたい衝動に駆られた。

「さすがに私達じゃ運べないので、配達の人に頼んだんですけど」

「そりゃそうだ・・・え?どうぞお掛けくださいって・・・うん、まあそれじゃあせっかくだし」

 浩之がおそるおそるソファーに腰をおろすと、芹香は右に、琴音は左にそれぞれ座った。

 フロアーソファーのためかなり低い位置まで腰が降りる。

 足下のシャギーラグも心地よく、浩之はすっかりくつろいだ気分になった。

 傍には小さなテーブルがあり、芹香御用達のティーカップセットが置かれていた。

「いやなんというか・・・落ち着くな、こりゃ」

 そんな浩之の様子を微笑ましそうに見つめる二人。

 しばしの間・・・

 修学旅行の土産話� ��んかを二人に聞かせていた浩之は、あることを思い出し二人に尋ねる。

「・・・今日はなんか実験をするって言ってなかったっけ」

「・・・・・・」

 こくん。

「ええ。そろそろ始めましょうか」


彼らはどのようにアメリカの旗を折るん。

 このところ琴音は、すっかり芹香の助手といった立場を確立していた。

 おもむろにソファから立ち上がると、様々な魔術道具が並んだ棚から、手際よく必要なものを取り出していく。

「どんな実験だい?どうせ俺が試すんだろ?」

「ええ」

 にこやかに、浩之にとってはあまり歓迎されざる事実を、端的に述べる琴音。

「・・・・・・」

 こくん。

「すみません、って・・・いいよいいよ。こういうのは男の役目ってもんだ。でもなにするのかな・・・?」

 着々と準備が進む中、一人取り残された浩之は、不安気な表情を浮かべていた。

 無理もない。

 これまでつき合った『実験』でろくな目に遭った ことが無いのだ。

 良くて気絶。

 一度は幽体離脱まで経験した。

「今日は精神的な儀式魔法なんです。なんでも感覚を鋭敏にし、精神力を向上させるとか」

 芹香は肯き、蝋燭と香炉に火をともす。

 少し甘い香りが漂いはじめ・・・頃合いを見計らって琴音は部屋の明かりを消す。

 蝋燭の炎だけが辺りを照らし、暗幕によって外部からの光が遮断された空間は、酷く幻想的だった。

「それで・・・俺はどうすれば?」

「心を落ち着かせ・・・あるがままを受け入れてください」

 琴音の言葉に素直に目を閉じる浩之。

 芹香の呪文の詠唱が始まる。

 普段は聞き取るのがやっとの小声も、こういう時は小さいながらも良く響く声で浩之の耳に届く。

 意味はさっぱり分か� ��ないが、その韻を踏んだ独特のリズムはすんなりと浩之の心に染み込んできた。

 香りもいっそう強くなり、目を閉じることにより鋭敏さを増した聴覚とともに、嗅覚も刺激される。

 これは確かに精神的なものだな。  

「・・・どうですか?」

 浩之の肩に琴音の手が置かれる。

「・・・いまいち実感がわかないけど・・・なんかこう・・・妙な気分だな」

 目を閉じたまま浩之は答える。

 魔法は信じることで成功に繋がる。

 しかし浩之は魔法そのものを信じている訳ではない。

 芹香を信じているだけなのだ。

 確かに今浩之は高揚感めいたものを感じていたが・・・

 だがそれは精神的なもの故に、果たして魔法の効果なのか、そうでないのかまではわからなかった。

 肩に置かれた琴音の手の感触。

 ふと、もう少し感じてみたくなり、軽く触れてみる。

 ひんやりとした手。

 柔らかくすべすべとした肌の感触。

 微かに鼓動さえ感じる。

 その琴音の手が動き、浩之の首筋をくすぐる。

「・・・くすぐったいよ。琴音ちゃん・・・」


メインで呼ばれ人々は何ですか

 琴音は無言でさらになで続け・・・その手を胸元まで伸ばすと、自らの顎を浩之の肩に乗せ、覆い被さるように体重を預けていく。

「琴音ちゃん?」

 背中に押し当てられた柔らかな膨らみが、浩之の鼓動を速くさせる。

「もっと感じてください・・・」

「え・・・?」

 いつもとは明らかに違う、どこか艶っぽい声に浩之はさすがに目を開ける。

 と、いつの間に近づいたのか芹香が浩之の目の前に立っていた。

 心なしか上気した顔が浩之を見つめている。

「・・・先輩?」 

 首筋に琴音の熱い吐息がかかる。

 息使いも少し荒い。

 どこか尋常ではない空気を察し、浩之は芹香に救いの手を求める。

� ��・・・なんか琴音ちゃんおかしくなってない?」

 芹香はその問いに答えることなく、さらに浩之に近づいて行く。

 くたっと、倒れこむように浩之にすがりつく。

 顔を伏せ、浩之の存在を確かめるように、その両手を腰に回す。

「ちょ、ちょっと先輩・・・!?」

 その身をぴったりと密着させつつ、芹香は擦り寄る子猫のように身をよじる。

 頭では二人を引き離そうとする浩之だったが、どうも思考に霞がかかったようにうまくいかない。そのくせ感覚だけは鋭敏に二人の感触を脳に伝える。

 下半身に血が集中していくのを感じたが、もはや止めようがなかった。

 首筋に琴音の小さな舌が這う。

 ゾクゾクと悪寒のように快感が走る。

「・・・二人とも止めろって・・・な� ��か変だぞ・・・」

「・・・いえ。おかしくなんかありません。これは私達が望んだことです」

 琴音が背中から離れると、浩之は慌てて首をよじるように後ろを振り向く。

 そこには先ほどまでとはうって変わった、強い意志を感じさせる瞳で浩之を見つめる琴音の姿があった。

 芹香もいったん離れ、立ち上がる。

 浩之だけが座ったままで、為す術もなく二人を交互に見つめる。

 体にうまく力が入らず、思考もまとまらない。

 この香りのせいか・・・?

「・・・この香りと呪文には、強い媚薬効果と暗示による弛緩効果があります」

 胸のスカーフをするりと抜き、スカートのフォックをはずす琴音。

 すとんと抵抗もなくスカートは床に落ち、薄いピンクのショーツが露わに� ��る。

「琴音ちゃん・・・止めろって・・・先輩も見てないで・・・」

「・・・私も望んだことです」

 帽子とマントを脱ぎ捨て、上着に手をかけると、ゆっくりと託しあげていく。

 ふくよかな胸を包む白いブラジャーが現れ、浩之の目はそれに釘付けになる。


どのようにエイブラハム·リンカーンは、彼の社会に影響を与えなかった

「・・・ですがこの効果は男性にしか現れません。従って私達はあくまで自分の意志でこうしているんです」

 振り向くと既に下着姿になった琴音がいた。

 ショーツとお揃いのブラジャー。

 芹香に比べるとまだまだ発育途上といったその肢体も、酷く刺激的なものには違いない。

 浩之は目を見開いたまま、どうしても視線を逸らす事が出来ない。

 媚薬効果?

 やばいって・・・

 どこか思考もうまくまとまらず、体も思うように動かない。

 自分の意志?

 まさかそんな・・・

「・・・こうするしか方法はありませんでした。私達二人を同時に愛してもらうためには・� �・」

 琴音の手が後ろにまわり、ブラジャーのフォックを外す。

 肩ひもをゆっくり片方ずつ降ろし・・・小振りな胸が徐々に露わになっていく。

「・・・浩之さん」

 小さな声に浩之は振り返る。

 そこには同じく下着姿の芹香。

 高級そうなシルクの上下。

 服の上からでもわかるスタイルの良さは、琴音以上の刺激を伴い浩之の目に焼き付く。

「・・・先輩・・・」

「・・・私達はどこか似ているんです」

「・・・琴音ちゃん・・・!?」

 もう琴音は何も身に付けてはいなかった。

 かろうじて胸と股間を手で隠してはいるが・・・

 自分の分身が痛いほど勃起していくのを感じる。

 ただでさえ琴音も芹香も掛け値なしの美少女なのだ。

 それがこん な姿をさらしていれば・・・

「どちらかが選ばれるのも・・・ましてやどちらも選ばれないのも私達には耐えられません」

「・・・だからこんな真似を?」

 こくん。

 芹香も肯く。

「・・・私達は『魔女』なんです。人とは違う・・・異質の存在。そんな私達を・・・普通の女の子として扱ってくれて・・・優しくしてくれて・・・」

 琴音の両手が徐々に下がり、全てをさらけ出していく。

「・・・私達は『浩之さん』に対する依存が強くなりすぎたんです」

「・・・『魔女』は己の欲望に忠実に従う事を決めたんです・・・」

 芹香ももう全てを脱ぎ捨てていた。

 淡い蝋燭の炎の中で。

 二人の白い裸体が浮かび上がる。

 最高に贅沢なストリップショーは終わった。< /p>

 ダンサーは学園でも一位二位を争う美少女が二人。
 
 観客は浩之ただ一人だった。

 しかもそれだけではすまされない雰囲気が漂っていた。

 それ以上の行為。

 心より体の方が反応を示す。

 全身が熱病に冒されたかのように熱い。

 見ているだけで射精してしまいそうな情景。

 香りのせいももちろんあるだろう。


 だがそれ以上に二人の裸体は魅力的であった。

 二人に怯む気配は無い。

「・・・本気なんだな?」

「「・・・はい」」

 あるいは彼女たちをここまで追いつめたのは自分かもしれない。

 浩之はここ数ヶ月で多くの女の子と縁を持った。

 その中でも特殊で・・・より深く係わったのがこの二人といえる。

 そこに明確な恋愛感情は無かったのかもしれないし、あったのかもしれない。

 その答えを出す前に、こうなってしまった。

 もちろん二人を嫌いなわけではない。むしろ単純にいえば『好き』である。

 ただその順位と種類が曖昧だっただけだ・・・

 これも俺の責任か・・・

 だが思い切った手段に出たもんだ。

 どちらかといえば二人は引っ込み思案な方だ。

 それがこんな大胆な事をするとは・・・

 二人が自分達の事を『魔女』と呼ぶのも浩之には痛いほど理解できた。

 世間一般とはかけ離れた力を持つ二人。

 魔法を操り、来須川グループという力を持つ芹香。

 超能力という文字通りの異質な力を持つ琴音。

 傷の舐め合いというにはあまりにも痛々し過ぎる二人。

 悲しいくらいに優しすぎる二人。

 俺はこの娘達にいったい何をしてやれるのだろう・・・

「「・・・これは私達が望んだこと。だから・・・」」

 それは免罪符。

 この期に及んでなお浩之をいたわる心。

 浩之に罪は無い。悪いのは私達。

 そう二人はいっているのだ。

 浩之は覚悟を決め� �。

「・・・おいで」

 そして宴が始まった。

  第二幕へ



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